大乱の余兆

しかしながら,
太子の廃嫡が容易にはいかないことを順正帝は知っていた。

太子の母は,帝の先の皇后 靖子であり,
彼女は帝室に連なる名門,一条氏の娘であった。
そしてまた,太子の妃は,これも名門,河本氏の娘である。

太子を廃すれば,一条・河本両家が黙ってはいない。
一条・河本両家は,帝国でも一,二を争う大諸侯なのであるから。

彼らが結束して挙兵すれば,
その下には十数万にのぼる兵が容易に集まるはずであり,
帝国内は大乱となる。

「どうすれば平穏に太子をすげ替えることができるだろうか。」
順正帝は,日々思い悩んでいた。

そこへ,滝川之信が助言をする。

「陛下,ご心配にはおよびません。
陛下と詮文皇子のお味方をする諸侯は,
実はなかなか多いのでございます。

まずは,彼らを要職におつけになることです。
そうすれば,太子の味方をする一条・河本両家の者は,
朝廷内で孤立いたしまする。

それから,皇后様のご実家・藤堂家の方々にも
箔をつけていただかなくてはなりません。
藤堂氏にも今以上の高位と特典をお与えになるのがよろしいかと。」

と。

順正帝は,自分の味方が存外多いことを知り,安堵したといい,
そのまま滝川の助言を聞き入れた。