客将時代

正信は,旧領奪還を目指していた。

しかし,身を寄せている姫村氏は,
東の香上氏の打倒を目指しており,北の本田氏に対しては,
守りに徹していた。

正信の思いと姫村氏の方針は相容れない。

しかも正信は,
先に秦氏を単独で撃破したこと,
天啓14年(1499)に坂牧で,
新名梓と共に本田軍を打ち破ったこと,
これらによって,声望をにわかに高め始めていたから,
姫村家中で警戒される存在になっていた。

正信は,独立を考えるようになった。

とはいえ,今現在,
姫村明治から与えられている所領を奪ってまで自立する気はなかった。

孤立無援に等しくなることが明白だったからである。

正信が鬱々とした煩悶の日々を送る中,
天下の形勢が大きく動く。

これまで,広奈国内で最大の影響力を持っていた西軍が,
天啓20年(1505)の鶴見の戦いで,東軍に敗北したのである。

東軍の盟主は,翌年の丙寅の変で美好氏から安達宗治へと移ったが,
それによって東軍の勢いはむしろ増したかのようであった。

姫村明治は,従来,香上氏に対抗する遠交近攻の相手として,
河本家を選んで西軍に属してきたが,
ここにきてその相手をより強大な安達宗治へと変えた。

姫村氏が西軍から東軍へ鞍替えしたことにより,
姫村領北辺の防備の一翼を担っていた正信は,秦軍や本田軍に加えて,
河本軍とも向き合わなくてはならなくなった。

窮地とも思える事態であったが,
正信には,あらたな出会いがあった。

突如,藍原広真という青年が会見を求めてきたのである。