邂逅

「藍原」と耳にした正信は,広真にひとまず興味を持った。

正信は,傍流とは言え,
広奈国の前に首州の統一王朝であった各務国の帝室の末であり,
藍原と言えば,その各務国の名門諸侯の家であった。

広真の姿は,「水賊」そのものであった。

「水賊」は,「海賊」に似ている。

活動の場所が海ではなく川というだけである。

独立した武装勢力といってよく,真秀川の航路を取り仕切り,
そこから収益をあげている。

広真は,水賊の若き頭領であった。

広真は,先祖が各務国皇帝より賜った太刀を正信に見せたといい,
それによって自身が藍原家の人間であると証明したと伝わる。

創作めいた話ではあるが,
現在も続く藍原広真の子孫の家には,
確かにその太刀が存在しており,
専門家らの鑑定からも,
本物であると信ずるに充分な特徴を備えているとの結果が出た。

とはいえ,広真の出自云々の話は,
正信にとっては,どうでも良い事になってしまった。

広真の献策の方が興味深かったからである。

端的に言えば,広真は,

「各務国を再興せよ。」

と正信に示したのであった。

「旧領奪還というのならば,
各務国の末裔である以上,
首州すべてをお取りになるべきです。

しかし,そのためには,
目先の遺恨にとらわれるべきではありません。

本田氏との対決を選んで,
新名家に縁の深い湾陰河北の地に進出するべきではないでしょう。

新たに新名家という敵をつくるだけです。

それぞれ縁ある地を抑えている姫村・新名両氏とは友好を保ち,
後背の備えとするのが良いでしょう。

また,河本家も代々,首内を領して恩徳を施しましたから,
これも崩し難いでしょう。

あなた様が取られるべきは,
あなた様に縁ある各務国発症の地 河首道です。

河首道は,その中心域は堅牢な盆地であり,
守りやすい土地。

また,盆地を取り巻く山脈のうち,西の外側には,
大陸との貿易港を抱える海まであります。

彼の地で,守りを固め,財を蓄え
天下の情勢をうかがって中央へ打って出るのが得策です。

しかも,河首道の諸侯は,
いずれも領内をうまく掌握できておりません。

与し易い相手です。」

と広真は説いた。

広真は,正信のもと藍原水軍を率いることとなった。

正信は,広真を下にもおかない厚遇で迎え,
しばしば親しく語らったという。

ここにおいて正信は,天下を志す決意を固めた。