魔導機士事典 序章

生命の根源となるエネルギー。

その存在をもたらした「坤輿人(こんよじん)」の一団。

遠い宇宙にある「坤輿」という惑星
から「チキュウ」にやってきたという。

しかし,チキュウ人類がこれまで散々想像してきた

「宇宙人」の姿は,彼らにはなかった。


「チキュウ人類」そのものの「坤輿人類」の姿。

擬態も変装もしてはいないという。

驚くべきことに,いわゆる「宇宙船」を降り立った彼らは,

「チキュウ」に「存在」する言語を話した。

英語やドイツ語,
それにスペイン語に,中国語……さらに,日本語も。

なんと,彼ら個人個人の母国語であるというのだ。


「地球」の双子とも言える「惑星」が存在していたのである。

遠い宇宙に……この謎。

そして,「双子」がもたらしたエネルギーは,
「命」を意味するギリシャ語にちなみ,チキュウでは「ビオス」と呼ばれる。

「ビオス」には,特別な力があった。

連鎖反応を阻害し,
核兵器を無力化する力……

特殊技術によって結晶化(ジェイド化)することで,
極めて長期間に渡り莫大なエネルギーを放出する能力……

これによってまず,核廃絶への扉が開かれた。

だが,地球に平安は訪れなかった。

核なき世界の実現で,核戦争の脅威が消滅したため
皮肉にもかえって戦争への抵抗が薄らいでしまったのである。

核抑止力の消滅により,外交のほころびが,
戦争へ結びつきやすくなってしまった世界……

特に,あらたに世界の火薬庫となった東アジアは緊迫していた。

外圧とそれまでの反動から軍備増強へと舵を切った日本。

ビオス特殊結晶体である「ジェイド」をいち早く軍事転用し,
「兵器」の動力として使うようになった。

生命エネルギーを動力源・兵器として使う「人型兵器 魔導機士」が誕生した。

しかし,事はそれだけでは済まなかった。

自己増殖・自己修復を行い,自分たちを監督,制御する
「勤労機士」が誕生したのである。

もちろん動力は「ジェイド」である。

世界各地に,「勤労機士」を利用したコミュニティが生まれた。

人の「労働」を限りなく必要としないコミュニティである。

そこでは,だれもが自身が保有する「機士」に労働を請け負わせて生活した。

司法や立法,行政の核となる部分以外を人が担わなくなった。

しかし,外部には,この新たなコミュニティを憎悪する人々がいた。

まず,純粋に糧を自らの労働によって得るべきとする人々――
そして,近代資本主義経済によって利益を上げる人々であった。

後者は,「機士コミュニティ」を積極的に潰そうとした。
実力行使をも伴った方法で。

もちろん,「コミュニティ」側も黙っていない。

「魔導機士」を量産して対抗する。

「コミュニティ」はしかし,戦争を「機士」に委ねなかった。
それは,「人が担うべき行政の核」であるとされたのである。

また,登場から間もない「機士」の暴走を恐れてのことでもあった。

世界は,「国家」の力がグローバル化・ローカル化によって低下していた。

世界規模での「コミュニティ」の誕生に「国家」が振り回され始めた。

一方で,「国家」という存在はまた,
現実的かつ機能的な面も有していた。

「国家」を「コミュニティ政権」が掌握する地域もあった。

日本も「コミュニティ」陣営が政権与党の座に就いた。